コーク割りのウィスキー

お酒なんてもうやめにしたい。

そう思いながらもコンビニに行って安いブラックニッカとコーラとロックアイスを買う。
 
家に帰って丁度良いグラスにロックアイスを二ついれ、ブラックニッカを4分の1入れる。グラスをカラカラと回し、ウィスキーとアイスが混ざり合うのを確かめてから、コーラを4分の3入れる。
 
まだ飲んではいけない。
下の方はウィスキーとコーラが混ざり切ってないので、もう一度グラスを回す。カラカラと音を鳴らしながら、コーラとウィスキーが程よく混ざり合うのを見届けてから、一口飲む。
 
何か物足りないな、と思う。
そこで僕は冷蔵庫の野菜室からレモンを取り出し、包丁で絞りやすい大きさに切る。
 
そうそう、最後のパンチはレモンなんだよ。さっきまでのコーク・ウィスキー割りにはパンチがなかったんだ。
 
切ったレモンをギュッと絞ったあと、グラスをカラカラと回す。ウィスキーやコーラやレモンや氷から溶け出した水とやらが上手い具合に混ざり合うのを確かめて、一口飲む。
 
これだ、これなんだよ。
と僕は膝を割って誰かと話したい気分になる。でも誰もいない。友達は海外に行ってしまったし、旅行やら就活で忙しい。母はどこかに出かけてしまっている。
 
まあ、良いじゃないか。
たまには1人で飲むのも。
 
ウィスキーを割るのはブラックニッカのような安いウィスキーだけで(こんなものロックで飲めるわけがない)、大抵はロック割りで飲んでいる。
 
ジャックダニエルマッカランジョニーウォーカーや山崎やらなんか色々。ジョニーウォーカーなんてキザなことを言ってしまったが、これはクセがある。スコッティッシュはどれもクセがあるのだろうか?わからない。
 
僕はタバコに火を点ける。
ウィスキーとタバコ、最悪な組み合わせだ。どこかの健康志向の人達の耳に入ったら真っ先に止めに入るだろう。
 
「良いですか。ウィスキーとタバコは体にあまり良くないんです。特にあなたみたいにそんなに強くなく、顔がすぐに赤くなってしまうような人には。本当に恐いのは肺ガンなんてものじゃなく、食道ガンなんですよ。お酒とタバコで普通の人よりも160倍もの食道ガンリスクを高めてしまうのですよ」
 
と言ったように。
はいはい、分かったよ。
今日で終わりにするから、そこで黙って座っていてくれないかな。
色々と考えたいことがあるからね。
色々って言っても大したことじゃないよ。僕が30歳になった時に、果たして22歳だった僕をどう思うのか?とかね。
 
22歳というのは、僕の母さんが2歳だった僕を胸に抱えていた歳だ。母さんは何をどう思い僕を産んだのだろうか?とか。もしも僕が22歳の今現在、誰かと運命的な出会いを果たし、結婚し、子どもを持つというのはどういうことなのだろうか?とか。
 
わからない。とにかく僕は僕になってしまった。色々な経験や周り道の結果、こうなってしまったのだ。
 
ドンドンドンとノックの音が遠くから響き、バタンと勢い良く開いたドアの向こうから「お前の人生はまったくのゼロだ!!」と怒鳴られようが、構うもんか。
 
僕は僕で、こうしてウィスキーのコーク割りを小さな幸福に包まれながら飲めればそれで良いのだ。それで良い。
 
 

 

 

 

もし僕らのことばがウィスキーであったなら (新潮文庫)

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