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真冬のデッドヒート

旅行記

真冬のデットヒート


「焼肉するか」の一言が全ての始まりでした。おじさんが納屋からバーベキューセットと炭を取り出し準備を始めました。外は一面雪に覆われ、高いところでは2mも積もってます。その時の天気は晴れでした。


「北海道では、真冬でも焼肉するんですか」と聞くと「んだ。マイナス20℃でもやる。モービルで山奥に行って、焼肉する。食べればあったかくなる」と言いながら、焚きつけ用に軍手を取り出し、灯油をドボドボかけ火をつけました。


ほー、これが北海道なのか、すごいなぁと滅多に経験出来ないことだろうと思い自分も楽しんでいたのでした。20分経ってから、雲行きが怪しくなり、灰色の雲があちこちに見られるようになりました。風も強くなり、体感温度は氷点下を切っていたと思います。パウダー状の雪が顔や手に吹き当たり、体温をどんどん奪って行きました。

「さすがにこれは体調を崩すんじゃないか」と聞くと「大丈夫。これが流氷バーベキューだ」と言ってやる気満々でした。


僕とおじさんは炭に十分火が点くまでの間、じっと座っておりました。時々手袋を外して火の上で手を温めながら、やっぱり寒いですよ、と僕が言うと、大丈夫だ、とおじさんは必ず返事をします。風が強烈になってきました。雪が首の下からどんどん入ってきたりして、ますます体は冷えましたし、手や足や顔は霜焼けっぽくなり、強張り始めました。


「よし、食おう」と言って、宗谷国産牛やシシャモや適当なものを乗せて焼いて食べましたが、寒くて味もわかりませんし、顎がガクガクして、ろくに噛めません。おじさんは正面で、黙々と肉を焼いて食べていました。


早く家に帰りたい気持ちが強くなってきて、そこら辺にあった肉を一気に焼いて一気に食べました。そうです…早く食べて、家に帰って、温かい布団の中で昼寝をしたいが為です。


「なんだ、足りなさそうだな」とおじさんが言い、奥さんを読んで肉の追加を頼んだ時は絶望的な気分になりました。奥さんも奥さんで、おにぎりを8つばかり握って持ってきてくれ、肉の追加もてんこ盛りでした。


風が強く吹くたびに、体がおかしくなっているのに気がつきました。鼻水もだらだらと垂れてきて、ティッシュを何枚使ったかわかりません。あまりに寒くて、いっそこのまま肉と一緒に焼かれてしまいたいと思ったくらいです。おじさんの様子もだんだん変わって来るのがわかりました。ガクガク震え、鼻水を吹くためにティッシュを大量に使っていました。風が吹くたび、紙皿は飛び、紙コップは飛び、割りばしは飛びで、それだけ風が強烈でした。


途中でバーベキュー開催の主旨が変わりました。初めは楽しく、美味しく、自然の中で、というモットーの下で行われたバーベキューも、寒さと強風と霜焼けのなか、どれだけ耐えて肉を食べれるか、という主旨に変わったのでした。後半のバーベキューは、まるで耐久レースであるかのように、寒さと強風に耐えながら黙々と肉を食べ、どちらが先に負けるかを競っていたように思います。おじさんと僕とで、真冬のデッドヒートを繰り広げたわけです。肉を網に乗せる度に「おい、まだ焼くのか」と言ったような視線をお互いに飛ばしました。僕が食べ終わると、おじさんが網の上に肉を乗せ「まだまだ、俺は耐えられるぞ」という視線や飛ばしてきました。


「こりゃあダメだ」とおじさんが遂に痺れを切らして言いました。軍杯は僕に上がったようです。いや、僕が先にそれを言ったかもしれません。いずれにせよ、ああ、やっぱりな、と思って、いくらなんでもこんな寒い中でバーベキューをしないんじゃないか、という最初の疑いが当たったことに安堵感を得たのでした。片付けは素早く行いました。これでもかってくらいに素早く手際良く、3分くらいでちゃちゃっとやって、足早に家に帰りました。


部屋の中で奥さんがクスクス笑っていました。「流石に、冬にはやらない」とのことでした。僕はおじさんを横目に見ると、「いや、これが北海道なんだ」と言わんばかりの顔をしていました。


家に帰り、布団の中に入り、1時間くらい寝て、体調が悪くなってるのがはっきりとわかりました。全身の至るところが変な熱で侵され、風邪を引いたのでありました。


真冬の風吹き荒ぶ、絶望的な、バーベキューで風邪を引く、わたくし。