誰か、僕が忘れてしまった絵本を見つけてください。

今週のお題特別編「素敵な絵本」

僕が幼稚園生だった頃は、とても熱心に絵本を読んでいたような気がします。たくさんの絵本を読むのではなくて、一つの絵本を何回も何回も繰り返し読んでいました。でも、あんなに読んだのに、「あのとき、僕は何を読んでいたんだっけ?」と思い出そうとしても全然思い出すことができません。不思議なものです。でも、絵本の内容は忘れてしまっても、絵本に描かれていた絵はよく覚えています。そのイメージが読んでから15年経った今でもハッキリと残っているんですよね。「おおきなかぶ」だとか「ぐりとぐら」だとか、話の内容はどんなのだったか忘れてしまったけど、絵だけは頭に入っている。「おおきなかぶ」は、おじいさんがおおきなかぶを目の前にしてあたふたしている場面。「ぐりとぐら」なら、丸太に座っておおきなオムレツを食べている場面と、絵本の中に書かれていたワンシーンだけは頭の中に残っています。

世の中、名作と呼ばれる絵本は幾らでもありますが、本当に名作なものは、読んだ後にたとえ全ての内容を忘れてしまっても、イメージだけが心の中に残っているものじゃないでしょうか。一度、頭に記憶されたものって10年後、20年後、30年経った後でも覚えているような気がするんですよね。全てを忘れてしまった後に、心に残っているものこそが、その人にとっての名作であり、素敵な絵本なのだろうと。


さて、タイトルが「誰か僕が忘れた絵本を見つけてください」なんですが、切実です。あの絵本は確か僕が5歳の時に読んだものです。今でもイメージだけが頭の中に残っています。でも、本のタイトルを覚えていません。ふと思い出しては、家の本棚を探してみてもどこにもありません。タイトルも分からないので、本屋さんで見つけることもできません。本屋の絵本コーナーに行って、僕は遠い記憶を頼りに探しましたが見つかりませんでした。でも、とても大切な絵本です。忘れてしまいましたが、忘れてしまった後に気づくものの大切さ、というものを考えさせてくれたのはこの絵本のせいです。まったく凄い絵本ですね。まったく。僕はこれから内容をここに書きます。誰かお願いですから、僕が忘れてしまった絵本を見つけてください。

その絵本に描かれていた少年は、とても電車のおもちゃが好きでした。毎日、毎日、その電車のおもちゃで遊んでいました。ところがある日、両親が引っ越しをしました。引っ越した後、段ボール箱を開けても、前の家であんなに楽しく遊んでいた電車のおもちゃが入っていなかったのです。どの段ボール箱を開けてみても、電車のおもちゃはどこにもない。主人公の少年はとてもガッカリしました。「僕の電車のおもちゃはどこに行ったの?」と、その少年はあちこち探すけどもどこにもありませんでした。

確か、そんな感じのお話だったと思います。僕はこの絵本が大好きでした。イメージだけを頼りに、内容を書き出したので、合ってるかどうかわかりません。男の子が電車のおもちゃで遊んでいるシーンや段ボール箱、新しい家のガランとした部屋。そんなイメージだけが残っています。

イメージだけはある。あるのにその絵本がなんというタイトルなのかさっぱり思い出せません。僕が15歳だった時も、20歳だった時もこのイメージだけは持っていました。喉の奥につっかえた魚の骨のように、このイメージのせいでなんか落ち着けないでいます(笑)

今でも「大事なものは、大切にしまっておかなければならない」と思うのはきっとこのイメージのせいです。それでも、どこかに大事なものは忘れて行ってしまうのですけれども…僕はあちこちに自分の一部を落としてきてしまったような気がしないでもないです。

これにて終わりです。誰かこの絵本のことを知ってましたら教えてください。

あ、これってコンテストのようなものなんですね…知りませんでした。てっきりお題とは別のことを書いてしまいました。絵本にまつわるお話…お話でした。

(絵本に関する、とあるエピソード)

母に絵本の読み聞かせをしてもらったことは良くありました。母は感受性が人一倍強かったのでしょうか。ある日、読み聞かせをしてもらっている時、僕は眠くなってきたんです。よくあるじゃないですか。よくわからない話を延々と聞かされていたら、眠くなってしまうアレです。半ば夢の中、半ば絵本という狭間をウロウロとしていると、頬にポタポタと何かが落ちてくるんです。なんだよ、雨かよと思って目を開けると母が絵本に感動しておいおい泣いているんです。今でも覚えています。「この主人公、可哀想だねぇ」と、おいおい泣いているんです。僕はそれを見てビックリしました。あの絵本なんだっかな…思い出せないや。

もう遠い記憶になってしまった…絵本のことを思い出すと胸が締め付けられます。だって思い出すことが出来ないんですもの…忘れてしまったことに忘れていた。そのことに気づいた時が一番、胸にウッときますね…。絵本のことは忘れても、絵本にまつわるエピソードは覚えている。それだけでも良いんじゃないんでしょうか。僕はこの記憶をずっと持ち続けるだろうと思います。10年経っても、20年経っても、決して忘れないだろうと思います。これが僕の原体験なんです。あの時、あの部屋で、良い読書体験をした。それで良いんです。たとえ、絵本のタイトルや中身を忘れてしまったとしても、です。