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夢で会いましょう。

日記

プルーストの「失われた時を求めて」風に日記を書いてみる。


秋葉原駅を降り、僕は喫煙所に向かった。いや、向かう途中で足を止めた。目の前に突如、人間の影が二人現れたからである。背の小さい方の影の手には買ったばかりのパンの袋が握られていた。大きい方の影は大きなキャリアケースを持っていた。そうか、そうか、そうだったのか、と僕は思い二人の影を後ろから追ってみることにした。彼ら二人は、ベンチに腰掛けた。背の小さい方の影は袋からパンを二つ取り出して、大きい方の影に差し出した。大きい方は「ありがとう」と言って、パンを食べた。小さい方も袋から自分の分を取り出してパンを食べ始めた。

僕はその二人の影を遠くから見つめた(バレないように)。パンを食べ終わると、大きい方が袋をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てた。彼ら二人は歩き出し、地下鉄の駅に向かい、東部伊勢崎行の電車に乗った。

僕も遠くから彼ら二人を尾行することにし、二つ後ろの車両に乗り込んだ。彼ら二人は、椅子に腰掛けて何事かを喋っていた。大きい方が笑うと、小さい方の影も笑った。彼ら二人を見ていると、動揺し、脈が速くなり、心が締め付けられた。だから、僕は車両の窓に顔を向け、前から後ろへとストロボのように過ぎ去っていく明かりを眺めた。

上野駅で電車が止まった。僕は車窓から彼らに目を移すと、二人はもうそこに座っていなかった。僕は電車から降りて、二人の影を探した。ホームを見回してみたがいなかった。僕は階段の方へと走り、影の姿を追ったが見つからなかった。

そうか、そうか、そうだった。と僕の中で何かが閃き、よろよろと改札口を出て公園に向かった。公園を抜け、僕は不忍池に着いた。蓮の葉はどれも枯れ、茶色くなっていた。池の周りには屋台が出ていて、食べ物の匂いがする。そして、太陽はもう少しで沈もうとしていた。空は青黒かった。

僕は二人の影を見つける。彼らはベンチに腰掛けて何かを熱心に喋っていた。大きい方の影は背中をまるめてどことなく申し訳なさそうに座り、小さい方の影は背筋を伸ばして堂々としていた。小さい方の影がトランクを開け、一冊の本を取り出し、大きい方に渡した。大きい方はそれを手に取ると苦笑いした。本をパラパラとめくり、装丁を熱心に見た。そして、小さい方に返した。彼ら二人は何時間経ってもそこに座っているので、僕は退屈になってパン屑を買い、鳩に与えた。20匹くらい鳩が周りを囲み、餌をついばんでいた。

小さい方が「もう帰らなくちゃ」と言った。僕はそれに驚いて彼らを注意深く見た。大きい方はトランクスーツを手に持ち駅の方へと歩いた。小さい方は、時々、手を大きい方に回したり、ポケットに手を入れたり出したりしていた。外はすっかり夜になっていた。上野駅周辺のビルからは眩いばかりの光が放たれていた。

駅に着くと小さい方が「さようなら」と言った。大きい方も「また」と言った。小さい方は改札を抜け、階段を上り、姿が見えなくなった。僕はそれを大きい方の影の後ろで見ていた。

大きい方の影は後ろを振り向くと「僕は君の一部だった」と言い「小さい方の影も君の一部であったものだ」と言って消えていなくなってしまった。

そうか、そうだったのか、と僕は思い、秋葉原に戻った。