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村上春樹『風の歌を聴け』

特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/pdmagazine

風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

 

 青春の一冊はなんですか?と聞かれたら、僕はこの本を最初に挙げると思う。初めてこの本を読んだのは大学2年生の時で、12月初旬。日に日に寒さが増し、人々がコートに顔を埋める季節。その頃、僕には恋人がいた。恋人(一人暮らしで、僕はその子の家に遊びに行っていた)が、どこかに行っている間に鞄から本を取り出して読んだ。恋人が戻ってくるとスネるので、隠れてコソコソ読んだのを覚えている。「本ばかり読んでないで、少しは私の相手をしたらどうなのよ」と言ったようになるのが分かってるからだ。でも、読んでしまう。

  読み始めると、軽快なリズム、簡素な文体の奥深くに秘められた意味。でも、意味なんてよく分からない。しかし、感じることはできる。そんな一冊の本に僕は虜になった。

 けれど、本の内容は正直なところあまり覚えていない。覚えているのは冒頭の「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」と、デレク・ハートフィールドの「昼の光に夜の闇の深さが分かるものか」くらいなものだ。どちらも言葉の意味なんて未だによくわからないんだけれども、何か嫌なことがあるとこの文章を思い出してしまう。その頃、誰かに何かを認めて貰いたくてもがいていたのかもしれない。自分のことを理解してくれない人たちに対して、「昼の光に夜の闇の深さなんてわかるもんか」と心の中で叫んでいたのかもしれない。でもまあ、この本を手に取ると、この本を読んだ場所、読んだ季節、恋人と過ごした色々と楽しかった日々のことも思い出す。色んな出来事が複雑に絡まり合っていた時に、なんのきなしにこの小説を手に取ったことで、救われた自分もあった。でも、もう二度とあの頃の僕は戻ってこないんだろうな。

 空気のように存在し、風のように去っていた過去。答えは風の中にあるのかもしれない。


Blowing In The Wind (Live On TV, March 1963)