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ポール・オースター「幽霊たち」

前回に続いてポール・オースターの「幽霊たち」について書こうかと思う。いわゆるニューヨーク三部作(ガラスの街、幽霊たち、鍵のかかった部屋)の二作目ということになる。この本は、一作目の「ガラスの街」よりも簡潔で、ページ数も少ないが、物語は奥深いものとなっている。1作目のコンセプトに近く、自分が何者でもなくなっていったり、ここではないどこかを求めて翻弄される人間が描かれている。

主人公は至ってシンプルだ。ブルー、ホワイト、ブラック、そしてブラウン(物語中あまりでてこないが、ブルーの父親的存在だ)。私立探偵ブルーのもとに、仮面を被ったホワイトが現れる。ホワイトは「ブラックを見張っていて欲しい。一週間毎に報告書を提出すること。その見返りとして、現金を渡す」ことをブルーに告げる。ブルーはその仕事を引き受け、ホワイトの用意したアパートの一室に腰を落ち着け、向かいのアパートに住むブラックを見張り始める。だが、ブラックは一向にそれらしい行動を起こさない。窓際に置かれた机に向かって、書き物をし、本を読み、たまに食料品を買いに外にでるくらいで、単調で、退屈な日々を送っている。そんな彼を見張っていたブルーは次第に焦り始め、自問するようになる。ブラックとは何者なのか?女が絡んでいるのか?ブラックとホワイトの関係は?グルなのか、それとも敵なのか。ブラックはブルーで、ブルーはブラックなのか?自分は誰かに見張られているのか?

ここでも一作目と同様、時が過ぎていきブルーは何者でもなくなっていく。私立探偵でもなく、誰かの恋人でもなく、また誰かの息子でもなくなっていく。こうして何者でもなくなった彼に残ったのは、内なる世界だけとなる。読み進めていくと、ブラックを見張っているブルーの内面が徐々に明らかになってくる。ブラックを通して、ブルーは、自分の内面を見つめるようになっていくのだ。

だがこの二作目では、まだ明確な答えを出していないようにぼくは思う。何者でもなくなり、内面を見つめ、自分の分身でもあるブラックと決別した後、彼はどこかに去っていく。去っていたあと、彼はどうするのか?どんな答えがその先に待っているのか?ポール・オースターは答えを明示しないまま物語を終えてしまう。

だがかえってそれがいいのかもしれない。物語というのはあえて答えを出さないことによって、「何かが秘められているかもしれない」と思えるからだ。まるで聖書の謎を解き明かすような、そんな読書体験を与えくれる作品。とてもおすすめです。

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)