コーヒーと恋愛

 渋谷でとある女性と出会った。デート、とまではいかないけれども3回一緒に出かけた。

 1回目は浅草の雷門で待ち合わせをし、花やしきに行った。お化け屋敷に入り、暗い道を歩いていると彼女が僕の腕を掴んでいて、少しビックリした。そのあと、名称が思い浮かばないんだけど、くるくる回る奴に乗り、フリーフォールに乗り、「少し気持ち悪くなった」と言うと、彼女は心配してくれた。花やしきを出た後、昔ながらの喫茶店に入って、コーヒーフロートを頼んで飲んだ。そこで、しばらく話した後に、神谷バーに入り、電気ブランを食べ、チーズとクラッカーをつまみ、また話しをした。家族のことや、子どもの頃のことや、大学時代のことや、好きなことから嫌いなことまで。それから日本酒を飲みに行った。彼女に出羽桜を勧め、ぼくは南部美人を飲んだ。メニューに「くどき上手」なんてあったら良かったのに(山形の美味しい日本酒です)、と思った。結局、その日は何事もなく終わった。また彼女に会いたいと思って、本を渡した。お互いを知るためのお出かけだった。

 2回目は、映画館に行った。ぼくが「名画座が好きなんだ」と言ったからだった。彼女も映画が好きなのかもしれない。早稲田松竹に入って、ゆったりとした椅子に腰掛けて、二本映画を見た。その日はとても寒く、空は曇っていた。「寒いね」というと「寒いね」と返事が来るのだった。その後、新宿に行ってこ洒落たお店に入ってワインを飲んだ。映画の話しを少しと、本の話しを少しと、またお互いの知りえていないところを補うための話しを少しした。日曜日だったので、夜遅くまでは飲まず、「またね」と言って別れた。

 3回目も、映画館に行った。スターバックスで待ち合わせをすることにした。雲ひとつなく晴れていて、太陽の日差しが暖かかった。彼女は外に置かれている椅子に腰掛けて、ぼくを待っていた。とても素敵なコートと柄の可愛いセーターと、落ち着いた色合いのスカートを履いていて、綺麗だった。

 

コーヒーをこぼさないように飲む彼女の顔が今でも浮かんでくる。

 


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 テーブルの上に一冊の本が置いてあった。それはよしもとばななの本で、ぼくは手に取ってパラパラとページをめくり、「読み終わったら、連絡するよ」と言って鞄の中にしまった。また彼女に会えるんだ、と思うと嬉しかった。ぼくは本が好きだし、映画も好きだ。いつも一人で本屋に行って、面白そうな本を買って読んで、誰にも話さず自分の心の中に留めておくことが多かった。映画だってそうだ。こんな映画を観て、あのシーンやこのシーン、あの女優の服装や演技は素晴らしいんだと思っても話す人がいなかった。映画を見終わり、神楽坂をぷらぷら歩いて、一軒のお店に入った。そこでまた他愛もない話しをした。お酒を飲み、おでんを食べた。それから水道橋に行って、バッティングセンターに行った。女の子らしいバッドの振り方で、なんだか胸が締め付けられるような思いがした。それからイルミネーションで彩られた通りを歩いた。3回も会ってくれているのに、ぼくはそれらしい話はしなかった。恋人がいるの、とか。もう少し話しがしたい、とか。でも、口には出さずともそんなことを考えれば考えるほど頭が痛くなってきて、惨めになってきた。以前、こんなことを誰かに話していたことを思い出しさえしたくらいだった。ぼくはすっかり臆病になって、どこか穴があったら入りたい気分だった。

 

「自分と一緒にいる彼女と、他の男性と一緒にいる彼女を思えば、きっと他の男性と一緒にいる彼女の方が楽しいはずだ」と、「女性に男性を選ぶ権利はあるけれど、男性には女性を選ぶ権利なんてどこにもないんだぞ!」と。

 

 結局、何事も起こらず彼女と別れて、電車に乗って帰った。

 

映画のセリフでこんなことを言っていた。「あなたに2回だけ映画を観に行くチャンスを与えるわ(その意味があなたにはわかるかしら?)」と。

 

 そういうもんさ。そういうものなのか?

 


サニーデイ・サービス「恋におちたら」