ミランダジュライ『あなたに似合う人』

東西線に乗ると、前に付き合ってた彼女のことを思い出して嫌な気分になる。駅から15分くらい歩いたところに住んでいて、坂を登り、ツタヤを通り過ぎ、映画館の前を通り、それから古いアパートへとたどり着く。そのアパートまでの道のりにも記憶の分子がそこかしこに散らばっていて、嫌になってくる。とりわけ、映画館の前にある最後に食事を取ったハンバーガー屋なんて。
その子とは「人の話を聞かないのね」の一言で終わってしまった。「その話も聞かなかったことにするよ」とは言えなかった。まあ、仕方ないか。
それはさておき、後ろを振り返っても仕方ないので新しい女性と会って話をする。とても可愛く、黒髪で、肌が綺麗。営業で車をよく運転するらしい(僕は、車は嫌いだ)。通信系の商品を売っているそうで、本人はあまり興味はなさそう。音楽が好きで、ライブによくいく。それから話を聞いていると、彼女は女子校でお嬢様だということが分かる。そこで僕の気持ちがげんなりする。
僕の趣味といえば読書と映画と野球の三つしかない。音楽は聴きはするけれど、真剣さが足りない。ライブもギャンギャン音が鳴るし好きではない。席にゆったりと座って、静かに聴くライブがあればいいのにと常日頃思ってる。まず、趣味は合わない。それからお嬢様とは話の質と生活の質が合わないだろうな、と思った。まあ仕方ないか、と思ってその日は終わった。
彼女とはその日以来会っていない。

そういえば、去年の終わり頃に大学の友人達と相席屋なるものに行ってみた。女性は無料、男性は1800円/30分くらい掛かる。正直、あまり乗り気ではなかった。ゾッとするほど、頭のスカスカな奴が来たらどうしようと思ったし、そんな奴の為にお金は払いたくなかった。1800円あれば文庫本が3冊は買えるだろうし、映画館で一本の映画を見ることができる。それら濃密な時間と引き換えに、スカスカな時間を過ごさなければならないのかもしれないのだ。

案内された席はやっぱりスカスカだった。看護の専門学校に通う女性だった。彼女達の話によれば学校には女性しかいなくて、男は全然いないとのことだった。だから、こういったお店に来てるのだと。初めて見た時に、「スカスカそうだ」と思った。というより店にいる人間(自分も含めて)みんなスカスカに思えた。この人達とは、文学がいかに素晴らしいものか、一本の映画で心がいかに揺さぶられ、人生を変えるられるのか、流れゆく時間の一瞬を切り取った一枚の写真が、その人の視点をいかに変えるのか、について語ることはできないと思った。僕達にとって相応しい会話といえば、ジャニーズの新曲くらいなものだ。そしてゴシップを読んで、海外セレブの豪華な生活に目をパチクリさせて、ドンキホーテで、セレブの生活に近づこうと努力をする。ご飯は、セブンイレブンの惣菜oh yeah

そして、過去の会話の抜粋。

「あなたは悪くないのよ」
「そうなの?」
「そういうところがダメね」
「え、どういうところ?」
「人の話が分からない、聞かないところ」
「え、よくわからないな?悪くないって言ってたじゃん」
「もう話す気になれないわ。あなたに合う人間なんてこの世にいると思う?私にはいないと思うわ。だいたい人の話聞かない人間に対して、話をしようとするので疲れちゃうのよ。あなたを納得させるのに、どれだけの時間と労力が必要なわけ?無関心さが思ったより頑固なの、わかる?」

ノルウェイの森のワタナベ君によれば「人としかるべく距離を置くこ」そして、夏目漱石のこころに出てくる先生によれば「その日を死んだように生きること」、そして風の歌を聴けの冒頭「昼の光に夜の闇の深さが分かるものか」

そういえば、ついぞこの前ミランダジュライの本を買った。写真付きでなかなかお洒落な本だった。