沢木耕太郎「旅の窓」

去年、夏休みを利用して一人で金沢、京都、そして広島を旅した。新幹線と深夜バスを使って、肩凝りに悩まされ、寝不足になりながら、学生の頃のようなめちゃくちゃなプランで進められた旅だった。

定番ではあるけれど、金沢21世紀美術館はとても良い場所だった。ガラス張りで、綺麗な曲線美の美術館で、館内に入るとまるで宇宙船の中にいるような、別次元へ旅に来たような気がした。館内を何周かし、写真を何枚か撮って、椅子に座って、しばらくぼーっとした。写真は、有名なラビットチェアである。この写真を撮ったのは、閉館前の夜8時くらいだったと思う。日中は、観光客が座ったり、記念撮影をしてたりして騒がしかったのだけれど、夜にいると誰もおらず、しーんとしていた。

僕はこのラビットチェアの真ん中あたりの椅子に座り、その日一日に起きた事を思い出していった。新幹線に乗って金沢まで来て、ホテル、茶屋街、兼六園金沢城、昼間の21世紀美術館、ホテル、金沢の繁華街、そして、夜の21世紀美術館と、ラビットチェア。美術館を出て、ホテルに戻ってからも、なぜか無人の美術館と、誰も座ってないラビットチェアが気になってしょうがなかった。誰もおらず、誰にも座られないチェアが、存在してる事にうずきのようなものを感じた。そのうずきが、何だったのかは分からない。

旅の窓 (幻冬舎文庫)

旅の窓 (幻冬舎文庫)

この前、写真を見返していて、ラビットチェアの写真に目が止まり、あの時感じた事がふと蘇ってきた。1枚の写真で色々な記憶を呼び覚ます事ができるから、撮っておいてよかったなと思う。

この沢木耕太郎の旅の窓も旅先で撮られた1枚の写真と、その写真を撮るに至った著者の思いが綴られていて、面白い。この本を読んで、試しに自分も1枚の写真をもとに何かを書いてみたくなったのだった。

あの日からもうすぐ1年が経とうとしてる。今年はどこに行こうとしてるのやら。